技能実習では大小さまざまなトラブルが発生します。
多くは技能実習生と日本の文化の違いや言葉の壁が原因です。
技能実習とのミゾを埋めるため、マニュアル作成や社内セミナーなども行われていますが、会社の共通ルールである就業規則を周知することも大切です。
今回は、就業規則がどんなものであるか、技能実習生を受入れる上で必要となる就業規則の見直しなどチェックしていきましょう。
就業規則とは?
就業規則は労働基準法で定められたルールの1つです。
労働基準法は経営者から従業員を守るために作られた法律で、労働時間など基本的な項目について制限しています。
ところが、労働基準法は細かいところまではルールを決めていません。
例えば親族が亡くなったときの慶弔休暇や長期入院などで働けないときの休職制度は、法律に明言されてはいないのです。
就業規則は労働基準法の穴を埋め、企業で働く人たちが明るく気持ちよく働けるようにするルールです。
労働条件、人事、服務規則、待遇の基準をはっきりと定めることで、労使トラブルを生じないようにする役割もあります。
常時10人以上の労働者がいる企業では就業規則を作成して、労働基準監督署に提出する義務もあります。
10人未満であっても就業規則は作ることができ、企業も従業員も守らなければいけません。
就業規則の特徴とは?
従業員の意見を聞く必要がある
就業規則は企業が作るものなので、基本的に一方的に決めることができます。
従業員の過半数で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表するもの)の意見を聞かなければなりませんが、反対されたとしても従業員に周知さえすれば問題はありません。
従業員が不利になる変更は原則不可
就業規則に書かれた内容は「契約内容」としての意味合いも持っています。
就業規則の内容が従業員にとって悪い内容になるものは原則として許されません。
例外的に変更する場合は、変更に合理的な理由があるかが求められます。
外国人用の就業規則は難しい
正社員とパートタイム従業員、無期雇用と有期雇用など就業規則を分けて作ることはできます。
働き方や責任の有無などが違うからです。
就業規則を分けていた場合、技能実習生は「有期雇用」なので有期雇用向けの就業規則を当てはめることができます。
しかし、外国人用や技能実習生用の就業規則を作ることは、労務管理上のリスクがあります。
労働基準法では国籍により差別することを禁止しているからです。
技能実習生を受入れるにあたって、不都合な事態があった場合は既にある就業規則を見直すという対応が無難でしょう。
就業規則の見直しをするためには?
技能実習生を受入れるからと言って、不都合がない限りは就業規則を変更する必要はありません。
しかし、技能実習生を受入れている中小企業では、就業規則の内容が不十分ということは少なくありません。
よかれと思ってやっている処理が実は不適法というケースもあります。
就業規則を見直す前に、就業規則の構成について確認しましょう。
絶対的記載事項
就業規則に必ず記載しなければならない事項です。
「いつ」「どれぐらい」「いくら」という働く上で大切なことや、退職に関することが対象になります。
「賃金の決定」は賃金規程や給与規定として別に作成されることが一般的でしょう。
- 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項
- 賃金の決定、計算と支払の方法、賃金の締切り・支払の時期・昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
相対的記載事項
社内ルールとして定めるのであれば、記載しなければならない項目です。
賞与規定や退職規定のように分けるケースもあります。
従業員の不利益となる制裁については、状況や程度に応じた処分を設定することが一般的です。
- 退職手当に関する事項
- 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項
- 食費・作業用品などの負担に関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰・制裁に関する事項
- その他全労働者に適用される事項
就業規則を見直すポイントとは?
技能実習生にどの規則を適用するかを決める
日本人従業員と技能実習生を分けて、どちらかを特別扱いするようなことはできません。
技能実習生にも就業規則を適用する必要があります。
問題となるのは働き方によって就業規則を分けている場合です。
有期雇用従業員用の就業規則を適用するのであれば、雇用契約書にも記載するとよいでしょう。
賃金規程
賃金規程には基本給、各種手当、割増賃金など従業員に支払われる賃金の種類や支払われる条件が記載されています。
欠勤や遅刻時の控除の考え方、中途入社の日割り計算式などトラブルになりやすい項目を決めて、共通ルールで処理できるようにしています。
また、賃金規程では基本給を等級表などで定めていることも多いでしょう。
重要なことは同一労働同一賃金が技能実習生にも適用されることです。
技能実習生が行う作業や責任などが日本人従業員と差がなければ、同様以上の報酬を支払わなければなりません。
賃金水準は在留資格が認められるかにも関わってきます。
技能実習生だけではなく、特定技能外国人を雇用する場合にも影響があります。
賃金規程は将来の可能性も加味して検討したほうがよいでしょう。
給料天引きに関すること
技能実習生の家賃や光熱費などを企業が立替払いをして、技能実習生から給料天引きするというケースはよくあります。
しかし、あらかじめ手続きをしなければなりません。
- 給与天引きするためには労使協定を締結
- 本人の自由意志による合意
一般的には労使協定の1つである「賃金控除に関する協定書」を、従業員の過半数で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表するもの)と締結します。
本人の自由意志による合意は従業員にとって「個人 VS 企業」となるため好ましくありません。
企業としても従業員1人1人と合意する作業は手間が多くメリットがないでしょう。
家賃や光熱費の給料天引きは就業規則に定められていなくても可能ですが、トラブル防止のためには盛り込んだほうがよいでしょう。
誰でも見ることができる就業規則と違い、労使協定を社内で公開している企業は珍しいのではないでしょうか。
技能実習生から給料天引きされている理由を聞かれても、日本人にも適用される就業規則に書かれていれば不信感を減らすことができます。
寮に関すること
労働基準法や労働衛生法には「寄宿舎」についてもルールが定められています。
技能実習生が生活している空間が寄宿舎に当たるなら、労働基準監督署へ設置届や寄宿舎規則の整備も必要となります。
ただし、アパートの1室で生活している場合や、経営者の家族と一緒に生活する住み込みのような場合は含まれていません。
寄宿舎にあたるかの判断基準は下記のようなものがあります。
- 常態として相当人数が宿泊する
- 共同生活の実態がある
- 事業との関連性がある
- 便所・炊事場・浴室などが共同というだけでなく、一定の規律・制限により起居寝食等の生活態様を共にしている
寄宿舎規則にも絶対的記載事項があり、作成や変更には寄宿舎に寄宿する労働者の過半数を代表する者の同意が必要です。
- 起床・就寝・外出及び外泊に関する事項
- 行事に関する事項
- 食事に関する事項
- 安全及び衛生に関する事項
- 建物及び設備の管理に関する事項
私生活や自治も重要視され企業の干渉は最低限度でなければなりません。
寄宿舎に該当しない社員寮であっても、企業は管理をしなければなりません。
生活や安全に関わる規則を作ることで騒音問題、設備故障、ゴミ問題などのトラブル防止にも繋がります。
母国語の就業規則を作成しよう
技能実習生に対応した就業規則を作ったとしても、技能実習生が読めなければ効果は落ちてしまいます。
就業規則は「周知」させることが求められてもいます。
日本人でも慣れていない人にとっては読みにくい就業規則を技能実習生が理解するためには、母国語の就業規則を作るのが理想です。
また、就業規則にどんな役割があるか記載するようにしましょう。
海外では雇用契約書に記載されている内容が、日本では就業規則にあることがよくあります。
労働契約書だけではなく、就業規則にも契約書のような法的効果があると伝える必要があります。
日本では雇用契約書に多くは書かない習慣がありますが、技能実習生にとっては「後出し」のような感情を持つこともあります。
技能実習生の採用面接時や面談など、できるだけ早い段階で重要事項は説明するようにするとよいでしょう。
まとめ
技能実習生とのトラブルを減らすためには就業規則を活用する方法があります。
既にある就業規則を技能実習生に対応したものに修正したり、母国語の就業規則を用意したりすることで、行き違いや不信感を防ぐことができるでしょう。
ふれんど共同組合では技能実習生を受入れるための社内制度整備など、専門的な部分でのフォローも充実しています。
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