一生懸命、毎日生活や夢のために働いている技能実習生。
ケガをしてしまうとケガの治療費がかかったり、働くことができなくなったりしてしまいます。
そんなときに助けになるのが労災保険です。
今回は技能実習生と労災の関係について学んでいきましょう。
技能実習生は労働災害(労災)が多い!
技能実習生の労災数は日本人全体の約2倍と言われています。
原因としては技能実習生が活躍する業種は労災が発生しやすい業種でもあるからです。
【労災発生率の上位】
1位 製造業
2位 運輸業
3位 建設業
【技能実習が行われる職種】
1位 製造業
2位 建設業
3位 農業
また、言葉の壁により危険な箇所や作業がうまく伝わらず、ケガが起こりやすいという実態もあります。
労災保険ってなに?
仕事中に従業員がケガをした場合、治療費などは会社が出さなければならないと法律で定められています。
しかし、日本では中小・零細企業が約9割で、万が一の時にお金が用意できない可能性があります。
そこで労災保険という仕組みが考えられました。
正式名称「労働者災害補償保険」は雇用すると自動的に加入する仕組みになっています。
これは問答無用のもので「加入の届出をしてなかった」という言い訳すらできないルールになっています。
ただし、一部適用されない業種や規模もあります。
- 個人経営で常時5人未満の農業・畜産業・養蚕業・水産業
- 個人経営で常時雇用しない林業
- ほぼ全ての公務員
労災保険料は業種・職種によって細かく分かれています。
例えば、オフィスワーク中心の業種よりも、危険作業が多い建設業のほうが保険料率は高く設定されています。
また、業務上のケガなどの補償は雇用主の義務なので、労災保険料は従業員が負担することはありません。
今回は業務中の労災を取り上げますが、実は通勤中のケガや事故もカバーされています。
かつては職場と自宅がほとんど同じ場所でしたが、今は別々が当たり前な上に自動車事故などの危険も増えました。
そこで通勤中も対象とすることになったのです。
労災保険の内容とは?
ケガ・病気を無料で受けられる
業務上のケガや病気では従業員に治療費は一切かかりません。
風邪で病院に行ったり、歯医者で虫歯を治療したりすると、原則3割負担なのと比べて手厚さは段違いです。
さらに治療の必要がなくなるまで治療費は無料で、再発してしまっても補償は続きます。
休業補償を受けられる
ケガや病気で療養していると働くことができません。
いくら治療費が無料でも、家賃など毎月出費は発生するので困ってしまいます。
収入を補償するために働いていたときの60/100の金額が支払われるのが休業補償給付です。
休業4日目から働けなかった日数分が対象となります。
また、待機期間である3日目までの分は雇用主が支払う責任があります。
治療が長くなってしまう場合は?
休業補償は「働けなかった日ごと」に支払われるものです。
数ヶ月なら手続きもする気が起きますが、何年も続くと負担が大きいですよね。
そこで治療開始から1年半を経過して、障害等級3級以上になっている場合は、傷病補償年金に切り替わることがあります。
1日ごとから1年ごとにすることで、手続きの負担軽減と安定的な収入を補償しています。
障害が残ったときの補償とは?
機械に指を挟まれたり、足を切断してしまったりなど、働く上で障害が残ってしまった場合は障害補償給付がされます。
障害補償給付は重度である1級~7級は年金、軽度の8級~14級までは一時金で支払われます。
ケガや病気前の収入にもよりますが、1級だと年間300万円程度が支払われます。
介護が必要なときの補償とは?
病気やケガが障害等級2級以上では介護が必要となることが多いでしょう。
親族などが介護を行った場合や、サービスを利用した場合の費用を支給するのが介護補償給付です。
条件によって実費支給と定額支給の2種類があります。
死亡したときの補償とは?
労災で死亡してしまった場合に年金または一時金が支払われます。
原則としては年金が支払われ、生計を同じくしていた遺族の数が多いほど額は大きくなります。
「生計を同じく」は共働きでも含まれ扶養されている必要はなく、遺族の範囲がとても広い特徴があります。
- 妻
- 夫、父母、祖父母(55歳以上)
- 孫(18歳に達する日以後の3月31日まで)
- 兄弟姉妹(55歳以上または18歳に達する日以後の3月31日まで)
その他、葬儀費用も支給されます。
労災が起きてしまったら?
治療を行う
技能実習生がケガをしてしまったら病院に連れていきましょう。
病院には労災指定病院とそれ以外の病院があります。
労災指定病院が手続き上スムーズですが、それ以外の病院でも労災の給付は受けることはできます。
緊急時は労災指定病院かどうかにかかわらず、治療を優先しましょう。
技能実習生に受入れ企業の担当者は付き添い、症状や状況を病院に説明するサポートをしましょう。
英語が通じる医師は比較的多いですが、技能実習の母国語はさまざまです。
技能実習本人が医師に症状を上手く伝えられず、適切な治療を受けられない可能性があります。
また、受付では労災だと伝えるようにしましょう。
その後の手続について指示やアドバイスをもらえることもあります。
労災手続きをする
労災が発生したら技能実習生本人の治療費用などの手続きを行います。
労災指定病院の場合は「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式5号)」など、状況に適した書類を病院などに提出します。
書面上は労働基準監督署が届出先となっていますが、病院を経由する仕組みとなっています。
さらに、労働者死傷病報告を労働基準監督署に提出しましょう。
とくに休業が4日以上のケガや死亡災害は事故後すみやかな対応が必要です。
休業が3日以内の軽微なものであれば、3ヶ月に1回の報告とされています。
一般的に、書類を提出する前には技能実習生本人や職場責任者などから状況や原因を記した社内の報告書を提出してもらいます。
その報告書を元に総務などの担当者が労働基準監督署や病院に持っていく書類を作成するのです。
労災隠しを疑われないためにも労働者死傷病報告書は1週間以内には提出するようにしましょう。
労災隠しは違法行為なだけではなく、技能実習生への労災隠しは社会問題として大きく取り上げられるリスクもあります。
監理団体に連絡する
労災が発生した場合は監理団体に連絡しましょう。
通訳の派遣など対処の手助けを求めることができます。
その他、技能実習生への家族への報告など受入れ企業だけでは対応しきれない面もあります。
療養のために技能実習を行えなくなった場合は、中断した理由と技能実習計画を技能実習機構(OTIT)に提出しなければなりません。
実務としても監理団体の支援は欠かせないでしょう。
保険会社に連絡する
技能実習生に特化した外国人技能実習生総合保険という任意保険がありますが、労災保険の対象とならない部分を補償してくれることがあります。
また、通勤労災では労災保険を使わず、相手方の任意保険で対応することもあります。
任意保険の取り扱いについては、自社が契約している保険会社に相談すると良いでしょう。
時間が経ってから判明する労災もある
機械への挟まれや刃物で切るなどケガは業務との関連性がハッキリしています。
しかし、病気は業務と関係があるか分かりにくい傾向があります。
しかも、数年が経ってから発症することもあります。
それも労災保険の対象となります。
- 木材を切ったときに発生する粉じんによる肺の病気
- 紫外線による目や皮膚の病気
- ベンゼンによる白血病
など
技能実習生が帰国する場合
技能実習機構に報告する
ケガや病気の状況によっては、技能実習生本人が実習の「中断」または「終了」を選択することになります。
中断では一時帰国して療養終了後に再来日、終了では帰国となります。
【共通】
- 技能実習生困難時届出書を技能実習機構(OTIT)に提出
- 航空券の手配と送迎
- 帰国
【中断の場合】
- 中断した理由と再開するに至った経緯などの理由書と技能実習計画を技能実習機構(OTIT)に提出
- 航空券の手配と送迎
- 入国・再開
労災保険は帰国後も支給される
労災保険は日本の社会保険制度の中でもっとも手厚い補償の1つです。
日本国内にいるときだけではなく、国外で療養しているときでも給付が止まることはありません。
支給決定日の為替レートを基準に支払われるため、技能実習を中断する場合、母国に帰国したほうが金銭で有利の場合もあります。
母国や海外で治療を受けた場合でも、労災に関係するものは支給の対象となります。
ただし、下記のように性質上日本国内に限られている支援制度もあります。
- アフターケア
- 義肢等補装具費の支給(車椅子など支給可能な場合もある)
- 外科後処置(義肢装着のための最術など)
- 労災就学等援護費(遺児が日本国内の学校に通学している場合)
労災を起こさないようにするためには?
母国語での教育
安全教育では図入りの母国語テキストも併用するようにしましょう。
「読めば分かるだろう」と渡すだけではなく、しっかりと研修の時間を設けなければなりません。
基本的に技能実習生の母国は、日本よりも安全意識が低いので思いがけないことをしがちです。
基本的なルールを教えると共に、災害事例の動画を見せてイメージを膨らませる工夫が大切です。
危険予知活動を行う
何をしたらどんな災害が起きるのかを、自分たちの環境に落とし込む必要があります。
日本人の従業員が当たり前に思っていることや、小さなことも拾い上げるようにしましょう。
技能実習生には「自分で考える癖」を付けるために、クイズ形式で行うことも効果的です。
まとめ
手厚い補償の労災保険は労災発生数が多い業種で活躍する技能実習生にとって強い味方です。
帰国した後でも給付を受けられること大きなメリットでしょう。
しかし、ケガや病気をしないことが一番大切です。
言葉や文化の壁がある技能実習生には母国のテキストや危険予知活動などを丁寧にしっかりと行う必要があります。
ふれんど共同組合では介護や製造など幅広い分野で活動しています。
労災など万が一のときの対応体制も整えています。
もし技能実習生・特定技能制度へのご相談や関心がありましたら、まずはお気軽にお電話またはメールフォームから問合せください!