外国人技能実習生を雇用するにあたって、彼らが信仰する「宗教」への理解と対応は欠かせません。
「宗教」は彼らの生活の一部であり、生きていく上での心の拠り所です。
それゆえ、宗教的儀礼や約束事、タブーの遵守を何より大切にします。
その感覚は日本人にとってはすぐに理解できるものではないでしょう。
だからこそ、彼らと共に働くためには彼らの信仰について学び、理解する必要があります。
そこで今回は、技能実習生として来日することの多い、東南アジアで広く信仰されている
ヒンドゥー教とイスラム教について紹介し、どういった配慮が必要かを説明します。
1海外における海外における宗教とは
日本人においては、特定の宗教を強く信仰している人は少数派です。
ですから、宗教的儀礼や慣習が時に奇異に思えるかもしれません。
しかし海外では宗教を持ち、信仰が生活や思想の一部になっている人の方が多数派であり、そうでない人の方が少数派です。
そのため、彼らからすれば宗教を持たず生きている私達、日本人の方が奇異に見えるかもしれません。
信仰を持つ技能実習生と共に働いていくためには、こうした宗教に対する互いの認識の差を埋めていく努力が必要です。
2信仰は働くモチベーションにも影響する
日本のビジネスシーンに「宗教」や信仰は組み込まれていません。
しかし、信仰を持つ技能実習生にとって、
信仰>仕事
であることは普通です。
信仰は彼らにとって自分が自分であるために必要なものであり、当然、仕事より上位に置かれます。
ですから就業時間中であっても時間がくれば宗教的な儀礼を行うこと、これも彼らにとっては「普通」のことなのです。
もちろん、それは私達の「普通」とは異なりますが、だからといって頭ごなしに否定してはいけません。
不信感を抱かせ、就業意欲を低下させてしまいます。
とはいっても、彼らの生き方や価値観の全てを受け入れるのは難しいでしょう。
ですから、こう考えてはどうでしょう。
仕事には効率を求めるのが私達日本人の価値観です。
ならばその価値観に基づいて、仕事のパートナーとして、彼らに前向きに働いてもらうのに一番効率的なやり方は何だろうと考えてみるのです。
そうすれば、彼らの信仰を受け入れ、その対応をすることが最適解だと気づくはずです。
3ヒンドゥー教徒への対応
ヒンドゥー教は、インドやネパールなどで信仰されています。
特に近年、ネパールからの技能実習生は増えています。
そんなヒンドゥー教の習慣と、共に働く際の注意点について見ていきます。
3-1食事上の制限
ヒンドゥー教徒が食べられるものには宗教上の制限があります。
・肉類(牛肉・豚肉)
牛は神聖な動物であるため、逆に豚は不浄とされることから食べません。
これらが材料で使われているスープや出汁もNGです。
・魚介類・卵
魚介類も避ける人が多いです。
肉と同様、鰹など魚を使った出汁も口にしません。
また、卵も動物性であるため、避ける傾向にあります。
・五葷(ごくん:ニンニク、ニラ、ラッキョウ、玉ねぎ、アサツキ)
臭いが強く、修行の妨げになるとの理由から、五葷(ごくん)と呼ばれるネギ科の植物も食べません。
社内の食堂で昼食を提供している場合、彼らが食べられるメニューを用意するか、弁当などの持参をお願いしましょう。
彼らが好んで食べる日本食は、野菜の天ぷらや豆腐料理などです。
日本食以外では、野菜だけのピザやパスタなど、イタリア料理も好みます。
もし、彼らをもてなす食事会をする場合は、そうした料理を提供する店を選びましょう。
3-2左手は使わない
ヒンドゥー教では、左手は不浄とされ、物の受け渡しなどは右手で行います。
彼らと業務上、接点が多い社員に、左利きの人がいる場合は注意喚起が必要です。
なお、左手をタブー視して使わないのは、後で紹介するイスラム教でも同じです。
3-3頭には触れない
ヒンドゥー教では頭は神聖なものとされています。
そのため、彼らの頭を触ることはタブーです。
スキンシップでも触らないようにしましょう。
4イスラム教徒への対応
イスラム教徒もインドネシアやマレーシアなど、技能実習生の派遣元となっている国で広く信仰されています。
4-1食事上の制限
豚肉とアルコールは口にしません。
ヒンドゥー教と同じく、スープなどの材料として使われている場合でもNGです。
4-2礼拝
イスラム教では1日に5回礼拝の時間があります。
5回のうち、就業時間と被るのは2回目の「太陽が一番高く上る時」に行う礼拝でしょう。
企業は、礼拝用の個室を用意する必要があります。
それが難しい場合でも、本人と話し合い、できる限りの対応をしましょう。
4-3断食
イスラム教徒には1年に1ヶ月ほど、「ラマダン」という断食を行う時期があります。
この時期は、太陽が出ている間は何も口にできません。
暑い時期に行うことも多いので、企業は熱中症や体力の衰えによる思わぬ事故を防ぐため、室内での仕事に切り替えたり、就業時間を短縮させたりといった対応が必要です。
4-4服装・異性との接触
イスラム教では、男女ともに肌の露出を嫌います。
特に女性はヒジャブと呼ばれるスカーフで髪を隠し、肌が見えないような格好をします。
就業規則に服装の規定がある場合は柔軟に対応しましょう。
また、異性との接触も極力避けるため、異性の同僚や上司にはあらかじめ注意喚起が必要です。
不用意なボディータッチは、宗教的にNGなだけでなく、セクハラと取られることもあります。
まとめ
いかがだったでしょうか。
日本人にとって「宗教」は馴染みの薄いものかもしれません。
しかし技能実習生を雇う際は、彼らが信仰する「宗教」について頭に入れておく必要があります。
そしてそれと真摯に向き合い、理解する努力をし、対応していかなければなりません。
外国人技能実習制度は、技術伝達の機会であると同時に、異文化交流の場でもあるのです。