外国人技能実習生の失踪や事件の背後には、往々にして彼らが抱える莫大な「借金」の存在があります。
なぜ彼らは自身が潰されてしまうほどの「借金」を抱えなくては日本に来れなかったのでしょう。
今回はその原因と、どうすれば彼らの借金が適正な範囲で収まるようになるかについて考えていきます。
1借金の原因は「送り出し機関」?
技能実習生を派遣する国には、彼らを送り出すための「送り出し機関」があり、語学の学習やパスポートの準備などサポートを行っています。
技能実習生は「送り出し機関」にそうしたサポートの対価を払い、日本へやって来ます。
しかし、その「対価」が莫大で、結果的に彼らの「借金」となっているわけです。
では、悪いのは「送り出し機関」なのでしょうか?
1-1技能実習生の負担額には上限がある
送り出し機関が法外な金額を技能実習生に要求しないよう、技能実習生の負担額の上限は国によって決められています。
たとえばミャンマーとベトナムの負担額の上限は次の通りです。
- ミャンマー上限:2800ドル
- ベトナム上限:3600ドル
これは、日本円に換算すると30万~40万といったところでしょうか。
彼らはこうした借金の半分程度は家族や親せきを頼って用意し、残りの半分を日本に行ってから彼ら自身が返済する「借金」とすることが多いようです。
そうすると、仮に上限に近い30万を借金したとして、実質、彼らが働いて返さなくてはいけない額は15万円ほどということになります。
これなら、日本でまともに働けばそこまで無理せずとも返せそうです。
にも関わらず、なぜ彼らが借金に苦しんでいるかというと、この制度には例外を認めるという抜け道があるためです。
つまり、この上限額に含めず「〇〇費用」(例:「教育費用」など)といった別枠で金額を上乗せできるのです。
こうした別枠で金額を上乗せされることにより、莫大な借金を背負わされる技能実習生が数多くいます。
1-2「キックバック」は廃止すべき
最近はだいぶ減ってきましたが、少し前まで、送り出し機関が仕事を請けるため監理団体を接待することも多くありました。
そのこと自体も問題ですが、この「接待」にかかった費用を、送り出し機関は技能実習生への負担金で回収しようとしてきました。
そういったことにも先ほどの「上乗せ」が利用されてきたのです。
1-3適正な負担額とは
では技能実習生に求めることができる負担額の適正額とはどれくらいなのでしょう。
先に負担額の上限の話をしましたが、基本的には彼らが負担すべき適正額もその上限程度でしょう。
そこから多少の上乗せがあったとしても、日本で半年程度働けば返せる額に収めるべきです。
それ以上の金額、たとえば返済するのに1年も2年もかかるような金額では、日本に借金返済に来たようなもので、技能実習制度の本来の趣旨である、技能の習得に集中することもできません。
1-4送り出し機関に問われるモラル
送り出し機関もボランティアでない以上、利益を出して事業を継続させていく必要があります。
しかし、行き過ぎた利益至上主義は問題です。送り出し機関には、自分達が技能実習生の将来の一端を担っている自覚を持ち、モラルある運営が求められます。
また、各国は無茶な「上乗せ」を防止する細やかなガイドラインを早急に定めるべきです。
2自己負担額を「ゼロ」にすることの功罪
借金が問題なら、受け入れ側の企業が肩代わりするなどして、技能実習生の負担をゼロにすればどうでしょうか。
たしかにそうなれば彼らが借金に泣くことはないでしょう。
しかし、問題はそう簡単ではありません。
なぜならこれは皮肉な話ですが、借金は彼らにとって足かせであると同時に、日本で頑張る動機にもなっているからです。
もちろん、その額が大きすぎると心が折れてしまいますが、ある程度の借金、リスクを負うことで、彼ら自身にも日本で働く覚悟が決まるのです。
それがないと少し辛かったら逃げ出してしまうなど、心理的な踏ん張りが効かなくなってしまう恐れがあります。
3送り出し機関だけではない借金理由
技能実習生の借金が膨らんでしまう理由は送り出し機関によるものだけではありません。
ベトナムなど、一部の国ではインターネットなどの情報より知人の紹介を信用する文化が根強く残っています。
そのため、送り出し機関の選定にもこの「紹介」が行われ、技能実習生は「紹介料」を払うことになります。
中には間に何人もの「知人」による「紹介」が入り、そのたび金額が上乗せされているケースもあり、その額も決してバカになりません。
4技能実習生が借金に苦しまないために
他の要因もあるにしろ、技能実習生の借金と、送り出し機関の在り方は密接に関わっています。
だからこそ、送り出し機関の「監視」と正当な「評価」が必要です。
過度な負担金を課していないか「監視」する一方で、技能実習生へ手厚い支援や教育をしている送り出し機関は正当に「評価」されるべきです。
そうすることで、技能実習生から巻き上げた方が儲かる、ではなく、まっとうに技能実習生のために働いた方が評価され、利益も出るという流れを生み出すことができます。
まとめ
いかがだったでしょうか。
技能実習生が抱える借金の背景には、制度的・文化的問題が絡んでおり、解決は一筋縄ではいきません。
それゆえ派遣する国はもちろん、受け入れ側の国や企業も一体となってこの問題を考え続けていく必要があります。