実習生の失踪者の2人に1人が建設業。その理由と失踪防止のためにできること

2022年10月4日   ブログ

現在、外国人技能実習制度は制度のあり方や実態に関して、国内外から批判を浴びています。
2022年7月29日、当時の古川法相も、当制度が本来の目的から実態が乖離していることを認め、有識者による見直しを指示しました。
制度の問題点の洗い出しが進む中、明らかになったのが、建設業における実習生の失踪者の多さです。

そこで今回はなぜ建設業で失踪者が多いのか、是正には何が必要なのかについて解説します。

1 実習生を巡る建設業の法令違反率と失踪率

建設業が実習生を適切に扱えていないことは、データからも明らかになっています。

➀建設業の法令違反率は8割

厚生労働省は22年7月に、実習生の受け入れが多い5職種(機械・金属、食料品製造、繊維・衣服、建設、農業)に対し、前年(21年)に監督指導、及び法令違反のあった事業場を公表しました。
それによると、法令違反の疑いで監督指導を受けた建設業の事業場は1528で、そのうち実際に法令違反があった事業場は1228でした。実に80%という高い割合です。

➁失踪者の2人に1人が建設業

入管庁は21年度の実習生の失踪者を7167人としています。
そのうち、建設業に従事していた者は3838人で、全体の53.6%と、過半数に及びます。
このことから、失踪した実習生の2人に1人が建設業ということになります。

2 建設業で失踪者が多い理由

建設業での失踪者の多さには、建設業や現場仕事特有の慣例と、技能実習制度自体が抱える問題、その両方が絡み合っています。

➀過酷な労働環境

きつい・汚い・危険のいわゆる「3K労働」に象徴されるように、建設業の現場は他業種と比べ、肉体的にも心理的にもハードです。
夏は暑く、冬は寒く、納期が迫っていれば荒天でも作業をしなくてはなりません。
日本人でも大変な職場ですから、異国の慣れない職場で、言葉の壁というハンディを抱えている実習生にとっては尚更でしょう。
事前にこうしたハードな職場であることを聞かされていない場合、実習生が失踪してもおかしくありません。

➁人手不足による安易な実習生の雇用

建設業は慢性的な人手不足であり、猫の手とはいかずとも、実習生の労働力を借りたいという思いがあります。
しかし、労働力不足を補おうとし過ぎるあまり、安易に実習生を雇用することは、両者のミスマッチを生じさせます。
実習生側の「聞いていた仕事と違う」「思っていたより給料が低い」という訴えと、雇用側の「聞いていたより体力がない」「思っていたより日本語ができない」という不満は、ミスマッチの典型例です。

建設業で実習生を雇用するには、建設業法第3条の許可を受ける必要があります。
ただし、この許可と、技能実習の職種は一致しなくても構わないとされています。
具体的な例で説明すると、企業が許可を受けた種類が、「とび・土工・コンクリート工事」で、実際の実習生の職種は「とび」だけでも良いということです。
こうしたズレが雇用後のミスマッチに繋がることもあります。
そして、働いているうちにミスマッチによるストレスが溜まり、結果、実習生が失踪してしまうこともあります。

➂誤った認識による賃金の不払い

これは建設業に限った話ではなく、技能実習制度自体の問題として、雇用する側の「実習生=安い労働力」という誤った認識があります。
そうした認識のもと、建設業でも実習生に対して残業代の未払いなどが頻発しています。
送り出し機関などに借金をして日本に来ている実習生にとって、適正に賃金が支払われないことは死活問題です。
その上、技能実習生という身分に縛られ、転職もままならないとあっては、失踪する者が出てくるのも無理のない話です。

➃日本人従業員の理解・協力不足

技能実習生制度に対する理解不足から、現場の従業員が実習生に対して暴言や時に暴力を振るうことがあります。こうしたことはよくニュースにもなっています。
暴言とまでいかなくとも、建設現場では上の人間が部下に対し、「お前」と呼び掛けたりすることは普通にあります。
しかし、この「お前」という呼び掛けも、日本語に慣れておらず、現場のそうした風習を知らない実習生からしたら威圧的に感じます。

また、建設業などの現場では、“仕事は見て盗め”といった古い職人の世界の価値観がある種の理想として、未だに信じられているところがあります。
しかし、そういった文化を知らない実習生からすれば、丁寧に教えてくれない周りの従業員の態度はただただ“不親切”なだけと映るでしょう。
扱いもぞんざいで、仕事もろくに教えてくれないとなれば、逃げ出したくなるのも当然です。

3 外国人技能実習機構の実地検査

実習先が、1章で述べたような、実習に不適切な状態になっていないか確認するため、外国人技能実習機構による実地検査が定期的に行われています。
この実地検査によって「不正行為」と入国管理局に判断されると、不正状態が是正された後も一定期間、実習生の受け入れができなくなります。
このことから、実習生が失踪するような職場環境を放置することは、雇用側にとってもデメリットが大きいことがわかります。

 

 

4 失踪者を出さないために

ではどうすれば失踪者を出さず、適切に実習を行える職場にできるか、そのために必要なことをお伝えします。

➀雇用側の実習生への意識を改める

雇用側は「実習生=安い労働力」という認識を改めましょう。
実習生を雇うということは、賃金が日本人と同等なのはもちろん、賃金以外のことについても、日本人以上に気を遣う必要があるという認識を持つことです。
雇用後もコストと手間がかかることがわかれば、人員の選考も慎重になり、ミスマッチも減るはずです。
具体的には、選考時に雇用後の仕事内容をしっかり伝え、それに耐えうる体力と覚悟があるか確認すべきです。

➁従業員への教育を徹底する

現場で実習生と接する従業員にも、技能実習制度の趣旨と実習生への接し方をしっかり学ばせましょう。
その中で、前章で述べた「仕事は見て盗め」といった現場の慣例のようなものは実習生には通用せず、そのような態度で臨むべきではないことを理解させましょう。

➂パワハラを容認する社風を是正する

指導にかこつけた、暴言や暴力がまかり通っている場合はそうした風潮を一掃しましょう。
実習生受け入れを、社内のコンプライアンス違反是正のきっかけにすべきです。

➃送り出し機関を厳選する

送り出し機関の中には、不当に実習生からお金を徴取しているところもあります。
送り出し機関への借金が、来日してからの実習生の生活苦の要因となっていることを考えれば、適切な送り出し機関を選ぶことは雇用側の責務といえます。

まとめ

今回は建設業で実習生の失踪が多い理由とその防止策についてお伝えしました。
その中には技能実習制度自体が抱える問題もありました。
一朝一夕で解決できる問題ではありませんが、雇用側は、自分達の「やり方」を押し付けるのではなく、思いやりを持って実習生に接することが大切です。