技能実習制度が見直しに?その理由と問題点とは

2023年1月11日   ブログ

2022年12月14日、政府の有識者による技能実習制度見直しについての会合が開かれました。
技能実習生の労働環境や地位はNHKなどでも特集され、過去に政府内で指摘されることもありました。
2017年11月に技能実習法が制定されてから5年あまり、本格的な見直しの時期が訪れようとしています。
では、技能実習制度についてどのような議論がされているのでしょうか?

政府ではどんな議論がされている?

技能実習制度は日本で働きながら製造業、建設業、農業などの技術や知識を習得して母国の発展に役立ててもらうためのものです。
日本に訪れる外国人の数は増加しており、今や約2割の外国人が技能実習制度を利用して日本で働いています。
地方に行くほど比率は高くなり約7割が技能実習生という県もあるほどです。
制度趣旨を実現するために活動する企業もある一方で抱える問題も少なくありません。
そこで有識者会議では2023年春を目標にして以下の検討を行っています。

  • 技能実習制度を存続させるか廃止させるか
  • 技能実習制度と特定技能制度を一本化できるかどうか
  • 技能実習生と受入企業をサポートする監理団体の在り方や存続について

制度の調整というよりも「そもそもこのままでいいのか」という抜本的な検討が行われているのです。
有識者会議の結果によっては、制度自体が大きく形を変える可能性もあります。

技能実習制度の問題点とは?

制度の理念と実態の解離

技能実習制度は新興国への経済発展に寄与するもので、社会貢献性の高いものとして発展してきました。
技能実習法でも技能実習生を労働力の供給調整として用いてはならないと謳われています。
しかし、実態は人手不足の対応として活用されています。
地方に行けば行くほど深刻で、いくら待遇を良くしても日本人が雇用できない現実もあるのです。
このように、国際貢献という理念と現実の乖離が発生してしまっています。

理由の一つとして挙げられるのが、日本世論が「移民」への拒否反応が大きい点。
少子高齢社会が進み若年労働力が減少、さらに日本人労働者が知識労働にシフトしています。
現場を支える人材の不足を外国人に頼りながらも「今までの日本」は変えたくない…。
その歪みが「本音と建前」のような現状を生み出しているのかもしれません。

低賃金労働・長時間労働の問題

技能実習生の人件費は日本人労働者に比べると低く、一般的な労働者の平均の約半分となっています。
技能実習生の受入れ企業にとっては社会保障費、監理団体への費用、技能実習生の各種積立費などを含めると日本人の新卒を採用するのと変わりません。
見た目の数字以上に言葉の壁など、管理コストは高くなります。
実は受入れ企業にとって「安い労働力」とも言いえないのです。
技能実習生のニーズは人手不足対策が強く、さばききれない業務量は長時間労働など労働環境の悪さにも繋がっています。

転職の自由が制限される

技能実習制度の最大の特徴は「原則、転職の自由が無い」ことでしょう。
日本国憲法22条では職業選択の自由が認められていますが、外国人労働者は在留資格ごとに制限がされています。
中でも技能実習生は特殊で、原則的には働く場所を変更できません。
一般的な受入れ企業にとって、数年間の安定した人員確保を見込めるのは安心材料でしょう。

しかし悪質な企業の中には、転職の自由がないことを利用していることもあります。
日本人なら劣悪な職場であればすぐに退職することができます。
会社側が退職届を拒否したとしても労働基準監督署やハローワークなどを通せば、強制的に適法な退職手続きを進めることも可能だからです。
そんな職場でも技能実習生は働き続けなければなりません。

このように転職の自由が認められていないのは、「安定した実習計画を実現するため」です。
しかし、新型コロナウイルスによって倒産や事業縮小のため、技能実習を続けられず帰国もできない事態が発生しました。
そこで「特定活動」に在留資格を変更して異業種への転職を認め、なし崩し的な状況にもなっています。
一方で技能実習制度での転職の自由を認めた場合、賃金水準の高い地域に集中するおそれもあります。
地方で人員が確保ができなくなるだけではなく、都市部などでの外国人コミュニティの自然発生による社会問題発生も想定されるでしょう。

私生活の自由を制限される

技能実習生も日本の法律で守られています。
もちろん、技能実習生にとって不利益になる事態を避けるために、指導やアドバイスを行うことはあるでしょう。
しかし、誰かに会ったり、何かを購入したり行動を制限することはできません。
例えば、携帯電話やパスポートの没収のように、外部への連絡を遮断することは許されません。
しかし、恋愛、結婚、出産のような私生活まで制限しているケースもあります。
技能実習生は弱い立場であることが多く、法律で保護されていても訴えられない事情もあります。
実習中に妊娠をした場合、育休・産休制度と技能実習制度の噛み合わなさから、一方的な解雇や強制帰国をさせられる技能実習生もいるのです。

多額の借金をして日本にくる

日本に来るため違法なブローカーに母国年収の何十倍もの手数料を支払ってやってくる技能実習生も少なくありません。
自宅や畑を担保に入れてお金を借りているため、借金返済のために過酷な条件でも働かなければならないのです。
このような実態は強制労働に繋がるものとして問題が指摘されています。

失踪者の問題

技能実習生の失踪者は毎年5,000人~9,000人と横ばいで推移しています。
失踪することで過酷な状況から逃げられると考えるからです。
失踪後はさまざまな方法で違法に働き、技能実習生としてよりも高額な収入を得ているケースもあります。
正規で働けないことから、悪徳業者に利用されて組織的な犯罪に巻き込まれてしまうことも。
日本の法律で保護されず、行政機関なども実態を把握しにくい問題があるのです。

欧米からの厳しい目

人権意識の高い欧米では技能実習制度に厳しい評価がつけられています。
在日米国大使館の「2022年人身取引報告書」では「強制労働」「労働搾取」など強い言葉を使っており、法整備も十分では無いと指摘されています。
欧米は人権侵害がある国に対して輸入禁止処置などペナルティを課すことも。
民間企業もコーポレート・ガバナンスの観点から同様の処置を取ることは珍しくありません。
欧米は自国や自社の基準に照らして、国外の取引先が人権侵害を行っていないかを監査し、基準に満たさなければ取引停止を行うのです。
しかも、国外の取引先の下請けすべてが「クリーン」である証明書や監査記録の提出を求めることもあります。
たとえ日本国内で適法・適正だとしても、欧米から見ればその主張は通らないのです。

JITCOのアンケートの結果では?

JITCOとは技能実習生や特定技能外国人の受入れ促進と国際経済社会の発展に貢献することを目的にした団体で、監理団体や受入れ企業などへ支援・助言・指導などを行っています。
2022年12月には監理団体、実習実施者に対して「技能実習制度についての評価」アンケートの結果を公表しました。
「良い点と悪い点がそれぞれあり、評価が難しい」という回答がもっとも多く、技能実習制度の難しさが浮き彫りになる結果でしょう。

技能実習制度のよい点

「人手不足対策につながっている」
「本人のキャリアアップにつながっている」

技能実習制度の課題

「技能実習制度の目的に反して、労働力確保の手段になっている」
「多額の借金を背負って日本に来ていることが多い」

今後の見直し方向については「技能実習と特定技能それぞれの特長を活かしつつ、連結性を高める改正を加えて並存させるべきである」がもっとも多く、「技能実習と特定技能を統合すべき」という意見が続きます。
もっとも注目すべきは「制度見直しに期待するポイント」として「労働力不足対策に正面から取り組む制度にして欲しい」という声が65.3%と圧倒的に多かった点です。
監理団体と受入れ企業など当事者たちは人手不足対策というメリットを感じながらも、技能実習生が置かれている矛盾や制度のゆがみには疑問を持っている状態なのです。
特定技能制度との一本化を希望する声も大きいことも「外国人労働者」として、法整備することで問題が解消されることを願っていると考えられるではないでしょうか。

出典:公益財団法人 国際人材協力機構 「技能実習・特定技能制度見直しに関するアンケート調査結果」
https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/jitco-prd-nhp/wp-content/uploads/2022/12/27162619/20221227.pdf

まとめ

2023年の春に有識者会議の結果が出てもあくまで1つの意見であり、その内容がすべて政策などに反映されるわけではありません。
技能実習生の議論は移民の是非など、日本の在り方を問うことにも繋がります。
人口減少や労働力不足への対応として外国人労働者を受け入れることは、国内消費増加や生産性の向上により日本の経済成長の活性化も期待できるのです。
一方で、日本人労働者の就職への影響や社会環境の変化などを懸念する慎重論も根強く存在します。

いずれにしても、現状の技能実習制度と特定技能制度には課題があるという考えは、受入れ企業や監理団体、行政機関、世論の共通認識と言えます。
外国人人材の活用と環境整備の見直しの議論は今後も長く続くでしょう。
ふれんど協同組合では技能実習制度の法改正や最新情報にも対応し、受入れ企業様からの疑問やご相談にも丁寧にお答えしています。
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