労働環境や賃金だけが問題ではない。円安と物価上昇が技能実習生に与える悪影響

2022年11月11日   ブログ

外国人技能実習制度については、技能実習生への賃金や労働環境などに対して、国内外で批判が上がり、改善が求められています。
また、こうした日本での労働環境や賃金の状況は、技能実習生の主な派遣先である、東南アジアの人達にも知られてきています。
その結果、彼らの中で、海外で働く意思を持つ人達の中には働き先として日本を敬遠する人達も出始めています。
そうした技能実習生の“日本離れ”をさらに加速させる要因となっているのが、円安と物価上昇です。
そこで今回は、円安と物価上昇が技能実習生に与える影響と結果について解説します。

1 円安と物価上昇が技能実習生の生活を圧迫する

冒頭でも述べたように、円安と物価上昇が日本で働く技能実習生の生活を圧迫しています。

1-1円安の影響

長引く円安は技能実習生の生活にも影響を与えています。
技能実習生の主な派遣先であるベトナムの通貨、ベトナムドンに対しても、今年の初めと比べ、円は20%ほど安くなっています。
母国へ仕送りをしていることが多いベトナム人技能実習生にとってこれは大きな問題です。
同じ額を仕送りしても、母国の家族が受け取れる金額は目減りしてしまうからです。
結果、止むなく仕送り額を上げる技能実習生もいますが、当然、その分、本人の生活は苦しくなります。
逆に、日本での物価上昇なども含め、仕送り額を減らすという苦渋の決断をする技能実習生もいます。

1-2物価上昇の影響

日本国内では円安に加え、物価上昇が起きています。
その背景にはロシアのウクライナ侵攻などによる、世界的な物価上昇があります。
資源や原料の多くを輸入に頼る日本は、この世界的物価上昇の影響をもろに受けてしまっています。
このことは当然、技能実習生の生活にも影響を与えます。
技能実習生達からは、以下のような切実な声が聞こえてきます。

「いろいろなものが50~60円くらい上がった」
日本人からすれば大したことのない値上げかもしれませんが、日々、切り詰めて生活している彼らにとっては大きな金額です。

「交通費が10円ほど上がった。日本に渡って3年近くになるが、交通費が上がったのは初めて」
交通費を支給している企業は、こうした彼らの声を敏感に汲み取り、交通費の支給額を上げなくてはいけません。
逆に、もし企業からの交通費の支給がないのであれば、交通費の値上げはそのまま本人の負担増へと繋がります。

「これまで食費が月2万円程度で済んでいたところ、今は2万7千円程度は必要になった」
こう答えた技能実習生は、スーパーの安売りコーナーなどで値札をチェックするのが日課になっているようです。

「電気、水道、ガス代は毎月約2万円程度だったが、今は2万4千円~2万5千円は払っている」
彼らの月給は日給に直すと1万円程度です。それを考えれば、4千円〜5千円の負担増が、彼らにとってどれだけ大きいか分かるはずです。

2 日本以外を希望する外国人労働者

1章でお伝えした、円安と物価上昇、それに加え、以前より指摘されている労働環境や賃金の安さなどから、技能実習希望者の中には、日本以外の派遣先を希望する人も増えています。
こうした状況は、技能実習生の労働力への依存度が大きい農家などにとっては死活問題です。
「今や、企業が技能実習生を選ぶのではなく、技能実習生が企業を選ぶ状況へ変わってきている。」
これは、技能実習生を受け入れているある農園の経営者の言葉ですが、現状を端的に表していると言えるでしょう。

2-1ベトナムの労働者派遣先の変化

ベトナムでは、コロナ前の2019年までは、日本への労働者派遣数がトップでした。
しかし、日本がコロナによる入国制限を設けたこともあり、2021年には一時的ではありますが、台湾への派遣者数が日本を抜きました。
2022年1月〜6月半ばまでは再び日本が1位になっていますが、この状況がいつまで続くかわかりません。
円安や物価上昇など、日本へのネガティブな印象が強まれば、他国への派遣が増えていくでしょう。
賃金の面でも、近年、ベトナム国内の賃金は上昇しつつあり、ベトナム人にとって、以前ほど日本で働く“旨味”は薄れてきています。
また、税金で手取りが減らされる日本の給与システムに不満を抱く技能実習生も少なくありません。

2-2外国人労働者の誘致を進めるオーストラリア

労働力不足に悩んでいるのは日本だけではありません。
今や海外からの労働力は、各国が奪い合う状況なのです。
そんな中、オーストラリアはベトナムと農業労働者の派遣・受け入れの協定を結びました。
現状、年間1000人という受け入れ制限はついていますが、提示されている賃金水準は高く、ベトナムの平均月収の10倍とも言われています。
これは、日本の技能実習生の平均賃金と比べて、2倍の近い額です。

また、労働期間についても、1年のうち9カ月働き、3カ月は自由行動と、日本と比べ、まとまった休みが確保されています。
こうしたオーストラリアの外国人労働者の受け入れ対策は、ベトナムなど、労働者の派遣元でも話題になっています。
このまま日本が何も対策をせず、手をこまねていれば、オーストラリアなど、他国へ技能実習生が流れていくことは必至でしょう。

3 技能実習生の流出を止めるために

技能実習生が減少すれば、労働力が確保できず、衰退、あるいは倒産する企業も出てきかねません。
そうした事態を避けるには、以下の対策をスピード感を持って行う必要があります。
前章でも述べたように、日本以外にも外国人労働者を欲しがっている国はあり、労働者の確保はそうした国との競争でもあるからです。

労働環境、賃金を是正する

やはりこの2つを改善しないことに始まりません。
技能実習生を雇用している個々の企業における意識改革、行動改革が求められます。
先般ニュースになった、技能実習生への暴行事件など、あってはならないことです。

外国人技能実習制度のイメージを上げる

今や、外国人技能実習制度は“現代の奴隷制度”などと呼ばれ、ネガティブなイメージが出来上がってしまっています。
ですから、①で行った改善を国内外にアピールし、外国人技能実習制度のイメージを上げる必要があります。
改善するだけでなく、そのことを知ってもらう努力が大切ということです。

円安に歯止めをかけ、物価上昇を抑える

これは、国際情勢や政府の金融政策が絡むことなので、すぐにどうこうなることではありません。
しかし、このまま円安が進むと、技能実習生受け入れには不利に働くことは明らかです。
いずれかのタイミングで歯止めをかける必要はあるでしょう。

まとめ

今回は円安と物価上昇が技能実習生の生活を圧迫し、受け入れにもマイナスの影響を与えることをお伝えしました。
ならばいっそ、外国人技能実習制度などなくしてしまえばいいという議論もありますが、技能実習生がいるからこそ成り立っている業界もあり、少なくとも、今の日本にはなくてはならない制度です。
だからこそ、技能実習生に携わる全ての団体、企業の1人1人が、出来るところから意識と行動を改善し、制度存続のために努めるべきです。
今のままでいいと、何も変えないでいることは、自らの首を真綿で締め付けているようなものだと知るべきでしょう。