諸問題の根源はコレだ!「言語の壁」を制する企業が技能実習制度を制する

2022年6月28日   ブログ

技能実習生を巡る、やり切れないニュースが後を絶ちません。
岡山の企業での実習生への暴行事件や、2年前には妊娠・出産した実習生が嬰児の遺体を土中に遺棄する事件もありました。
裁判長も同情、妊娠したベトナム人技能実習生に冷たかった日本 借金抱え、受診も断られ、企業と監理団体は「気付かなかった」

死体遺棄の容疑で逮捕された実習生は「妊娠したら帰国させられる」と思っていたようです。
妊娠した実習生は「帰国」の対象ではなく、むしろ「保護」の対象であり、雇用している企業にはその義務があることを、以前の記事でもお伝えしました。
技能実習生の【妊娠・出産】について対処法を公開

しかし残念ながらその情報は今回、逮捕された実習生には伝わっていなかったことになります。

上記のネットニュースの記事では実習生を巡る日本社会の「冷たさ」を指摘していました。
技能実習制度を「現代の奴隷制度」として廃止を求める動きも起き始めています。
「技能実習制度廃止プロジェクト」が指摘する問題点と改善策とは?

上記の記事の中で筆者は、現行制度の改善案の1つして、実習生と地域の人々との結びつきを強め、実習生を孤立させないことが大切と伝えました。

 

しかし、現に逮捕された実習生は自ら産んだ赤ん坊を自ら捨てるしかないくらい「孤立」し、追い詰められていました。
それは、ここまで書いてきた問題の下に、より根本的な「言語の壁」という問題が潜んでいるからではないでしょうか。

 

 

1 全てをクローズさせる「言語の壁」

今まで書いてきたことを箇条書きにすると、点が線で結ばれるように、これらの下に「言語の壁」、つまりコミュニケーションが上手く取れない、あるいは言語がわからず情報が得られないといった問題があることがわかります。

・岡山での暴行事件
 →言葉が通じず、仕事の覚えが遅いことに苛ついた結果

・日本人は実習生に冷たい・進まない地域との結びつき
 →言葉が通じないため、コミュニケーションが取れない、取りにくい

・逮捕された実習生には「妊娠したらどうなるか」の情報が伝わっていなかった
 →日本語での情報を得られないため

どんなに制度を改善しようと、その情報が実習生に伝わらなかったら、あるいは伝えられなかったら意味がありません。
技能実習制度が抱える様々な問題の上流には、川の流れをせき止めるダムのように、「言語の壁」が立ちはだかっているのです。

 

 

2 「言語の壁」が取っ払われれば問題は解決するか

「言語の壁」がなくなったからといって、外国人技能実習制度が抱える問題の全てが解決するわけではありません。
たとえば、送り出し機関が実習生に課す多額の借金などは、言語とはまた別の問題です。

しかし、「言語の壁」がなくなり、実習生とスムーズにコミュニケーションを取ることができるようになれば多くの問題が解決、改善するのは間違いないでしょう。

たとえば岡山の暴行事件も「言語の壁」さえなければ実習生はもっと周りに助けを求められたでしょうし、そもそも、ここまで苛めがエスカレートすることもなかったでしょう。

 

妊娠の事件もそうです。

ネットニュースの記事によると、社員の中には実習生のお腹が大きくなっていることに気づいていた社員もいるようです。
密かに気にし、心配していた社員は他にもいるでしょう。
けれど、結果的には誰も彼女に声をかけませんでした。

だから、日本人は冷たいと言うこともできますが、もしそこに、「言葉の壁」がなかったら、状況は変わっていたかもしれません。
少なくとも同じ日本人として、筆者はこの国の人の優しさを信じています。

けれど、助けの手を差しのべる、最初の一歩はやはり声掛け、つまり、言葉なのです。
その妨げになってしまうのが「言語の壁」なのです。

 

 

3 「言葉の壁」の外し方

ではどうすれ「言語の壁」を外せるのか。
日頃から積極的にコミュニケーションを取りましょう、といっても、なかなか浸透しないでしょう。
日本人は優しいですが、シャイな人種ですから。

 

3-1社内「言葉教室」を開く

そこで、「言語の壁」を外すきっかけとして提案したいのが、週に1回、「言葉を教え合う教室」を社内で開くということです。
週替わりで色んな部署の社員が実習生に日本語を教え、代わりに、社員は実習生に母国語を教えてもうらというわけです。

お互いの言語能力向上にもなりますし、教え合うこと自体がコミュニケーションにもなります。
週替わりで「日本語の先生」を変えることで、実習生は色々な社員と繋がれます。
これはいざという時の社内での相談相手を増やすことにもなります。

一方、日本人社員にとっても、先生役を務めることで、「技能実習制度」を他部署の他人事ではなく、自分事として関心を持てるようになります。
企業においては、こうした取り組みを業務に関係ないと切り捨てるのではなく、実習生を雇う以上、必要なことと捉える必要があります。

 

3-2「トピックワード」を用意する

せっかく「教室」を開くのだから、言語を教え合うだけでなく、実習生の不安などを聞き出す機会にもすべきです。
そこで、言葉を教えるということに結びつけて、毎週、実習生に今、一番気になっている「トピックワード」を母国語で教えてもらいましょう。

さきほどの妊娠した実習生の例で言えば、ズバリ「妊娠」という言葉を引き出せたらベストですが、それが無理でも、「体調」や「帰国」といったワードをこうした機会に聞き出せていれば、何か手を打てたかもしれません。

もちろん、こうした仕組みが機能するには実習生と信頼関係が築けていることが前提ですが、言葉を教え合うことが、お互いへの信頼や安心に繋がっていくはずです。

 

 

4 そもそも実習生には優しく接するべき

ここまで読んで、「いやいや、言語の問題というより、思いやりの問題でしょ」と思った方もいると思います。
思いやりさえあれば、「言語の壁」があっても助けの手を差し伸べられると。

しかし、そうしたある種の性善説に拠ってきた結果が、現状です。
優しさや思いやりは謂わばコミュニケーションにおけるソフト面です。
それを発揮しやすくするためにも、言語というハード面の整備が必要ということです。

 

 

まとめ

もう、実習生に関する悲しいニュースを見たくありません。
そのためには社員と実習生の間で信頼関係を築くことが必要です。

そして、信頼関係を築くためにはコミュニケーションが必要です。
そのコミュニケーションをスムーズに取れるようにするために、まずはお互いの言語を理解するところから始めてみてはいかがでしょうか。